母が乳がんになりました

私が小学生の頃のお話です。
ある日、母が暗い顔で「話がある」と言ってきました。
何があったんだろうとどきどきしながら聞くと、「ママは乳がんになってしまった」と
涙声で伝えられたのです。
母は以前、心臓外科の検査で心房細動と診断されたことがありましたが、生活に支障をきたすほどではなく、いつも明るかったので、母の涙にとても驚いたのを覚えています。

”がん”と言われても見た目はいつも通りの母だし、全く実感はありませんでした。
母の乳がんを実感したのは治療が始まってからでした。
リンパ腺まで転移してしまっていたため、抗がん剤治療が始まります。
その抗がん剤で避けて通れないのは、副作用です。
最初に母を苦しめた副作用は、吐き気でした。
おなかがすいているのに、食べ物のにおいをかぐと戻してしまうことが増え、
一日中布団の上で過ごすことが増えていきます。
そんな母をさらに苦しめた副作用は、髪の毛が抜け落ちてしまうことです。
一緒にお風呂に入っていた時、母がシャンプーをしていました。
洗い流そうとすると、手には抜け落ちてしまった大量の髪の毛が絡まっているのです。
「始まっちゃった」と小声で言った母がいたたまれず、二人でわんわん泣いたことは
いまでも記憶に残っています。
そこからウィッグを買いに出かけたり、家で寒くないようニット帽をプレゼントしたりしました。
様々な副作用と手術を終え、10数年経ったいま、母の乳がんは完治との診断をいただいています。
自分ががんにかかってしまったショックに加え、薬の副作用、将来への生の不安etc…
私には数えきれないほどのネガティブな気持ちとの闘いがあったかと思います。
私ができることは少なかったけれど、私以外の家族や友人の支える気持ちが
集まったことで母はなんとか乗り越えることができました。
本人の気持ちにどれだけ寄り添えるかが大切なんだと、
幼いながらに学んだことは今後も忘れずにいたいと思います。